書話§再読『花神』司馬遼太郎-上巻-

政財界人が読む司馬作品は『坂の上の雲』のようなものが主だったり
していて、必ずしも『花神』が挙げられないのは、この小説の主人公
が“技術者”で、思想信条を語る度合いが少ないからだろう。

最初に読んだ司馬小説が『花神』で、NHK大河ドラマで取り上げら
れる直前のことだった。出演者の一人が「宇和島の提灯職人が蒸気船
を造ったのだ」と話しているのを聞いて興味を持ったからである。

主人公の村田蔵六(大村益次郎)は、合理主義者というか実も蓋もない
物言いで人々を鼻白ませるが、説明を省いて余分なことは口に出さな
いという能吏のような存在である。

一介の村医者が蘭学を志したことで、その先戦略家として徳川幕府を
崩壊させるとは、本人もまったく予想した生涯ではなかっただろう。

今読んでいるのは上巻だが、特に興味深いのはシーボルトの娘イネと
の交流であり、小塚原における刑死者の腑分けのシーンである。腑分
けをしている横を、吉田松陰の遺骸をもらい受けた桂小五郎が通りか
かってという件は、そこで明治維新に向かう歯車がまた一つ動いたわ
けで、一つの偶然として片づけられない一こまなのだった。

久々に読み返して、先週で上巻を読了。中巻に取りかかったところで
ある。

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