歌話§『タンホイザー』新国立劇場[下]

《承前》

一幕後半、ヴェーヌスベルクから緑の野に転換した時に、柱が回転し
十字架になったあたりも何だかな安易さに思えた。90年代初頭のバイ
ロイトでの『パルジファル』の舞台の亜流のようなものかと思った。

それに、これまでに観たいくつかの上演では十字架より“マリア像”
を多く見かけた記憶がある。『タンホイザー』の宗教観については、
その時代におけるマリア信仰との関連づけが指摘されている。三幕の
“エリーザベトの祈り”はもちろん、タンホイザーが一幕で祈るのも
マリアに向かっているわけで、十字架だけではそもそもの意味合いが
希薄になる恐れもあるのだ。

バイロイトでも仕事をしていたことのあるレーマンが、そういったこ
とを知らないはずはないと思うが、十字架を示すことで、よりキリス
ト教ということを強調したかったということか。であるにしても。

最も安定した仕事をしていたのは、三澤洋史率いる合唱団だった。

歌手でよかったのは、エリーザベトのリカルダ・メルベトとヴォルフ
ラムのマルチン・ガントナー。懸念されたボンネマのタンホイザーは
一幕と二幕は懸念どおりの不安定さと癖で危うかったが、明らかに目
標を“ローマ語り”に絞っていたことが功を奏したか、緊張感を保っ
た声と表現で健闘したといえるだろう。

オーケストラ(東フィル)は、個人的には金管のトーンがアンサンブル
の中で乖離しているような気がしている。オケ全体の中にうまく融合
していってくれないようなのだ。……幕を追うごとに改善していった
部分もありはするのだが。

というわけなのだが『タンホイザー』は好きなオペラである。何がと
いえば、あの巡礼の合唱――特に終幕で奇跡を讃美する場面――であ
る。ワーグナーが書いた合唱の中でも最高度のポピュラリティを持ち
ながら、素朴で根源的な感性を刺激するのである。

これで、10月怒涛の5演目月間が無事に終了した。来月はドレスデン
『タンホイザー』の一本。ファビオ・ルイジを聴いたことがなかった
ので楽しみにしていたのに、唐突な指揮者変更には不満を覚える。

《オペラのトピックス一覧》

この記事へのコメント

2007年10月24日 23:52
こんばんは。

TBありがとうございました。
私もほとんどひだまりさまと同じ印象をもちました。
とりわけ、メルベートには一目惚れでした。
いいソプラノですね。

ひだまりさまは、11月のドレスデンでも「タンホイザー」をご覧になるのですね。
私は、「サロメ」と「ばらの騎士」です。
またゼンパーオペラのタンホイザーの記事を楽しみにしております。

2007年10月25日 13:47
こんにちは、いらっしゃいませ。

失礼ながら勝手にTBさせていただ
きました。どうぞこちらにもTBを
貼ってください。
2007年10月25日 14:03
トラックバックありがとうございます。来月のタンホイザーは10日の横浜公演です。
2007年10月25日 14:25
僕は17日です。指揮が、メルクルに
変わってしまいました。ルイージは
まだ聴いたことがなかったので、変
更にはとてもがっかりしています。
2007年10月26日 23:52
こんにちは。TBありがとうございました。
大方、皆さんのご意見どおり、メルベトの素晴らしさが目立ちました。
そして、十字架の見解は、HIDAMARIさんのご指摘の通り、聖母マリアであるべきなんでしょうね。マリア像がすえられた演出の写真をみたことがあります。
来るドレスデンではいかがでしょうか?
私は、エトヴェシュの指揮となりました。
口惜しいので、ばらの騎士を手配してしまいました。
2007年10月27日 18:00
コメントをありがとうございます。

ドレスデンも書きます。

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