音話§ゼンパーオパー『タンホイザー』[下]

《承前》

二幕の歌合戦では、タンホイザーと騎士達が少しオーバーとでもいえ
る表現づけの歌い方をしていたが、この演出ならば別段おかしくもな
くて、特に原理主義ガチガチのビテロルフとのやり取りは際立ってい
たと思う。

コンヴィチュニー演出の大きな眼目はといえば、ヴォルフラムをより
重要な存在として浮かび上がらせたことだろう。彼の存在を強めるこ
とで二幕はもちろんのこと、特に第三幕後半の人間関係が浮彫りにな
った。

ヴォルフラムは、打ちひしがれたエリーザベトを見やりながら『夕星
の歌』を歌うのだが、そういえば夕星は金星で“ヴェーヌス”である
と思い至った。なぜヴォルフラムはヴェーヌスという名を持つ星に向
かって歌ったのだろう。彼もまた心の内にヴェーヌスへのシンパシー
を隠し持っていたということなのだろうか。

幕切れでヴォルフラムは、二幕でタンホイザーがローマに向かったの
と同じように階段を上がって行く。その行き先がローマであるとすれ
ば……。舞台の前面では、アルコール中毒のヴェーヌスが“救済”さ
れたタンホイザーとエリーザベトを抱きかかえているが、やっぱり、
大きなお世話だなと思ったりする。

何度も書いているが『タンホイザー』は好きなオペラである。ストー
リーがと言うより、特に合唱に惹かれる比率が大きい。特に三幕での
巡礼の合唱や幕切れの奇跡を讃える合唱を聴いていると、舞台上のあ
れやこれや、訳がわからないことや腹の立つことを忘れてしまえるの
である。

ワーグナーが「借りがある」と『タンホイザー』について語っている
が、彼自身がこのオペラの不完全さを自覚していたようで、何とかし
て決定稿を物したかったのだろう。そう思って聴いているせいなのか
いつも何となく半終止の和音が多いような気がするのだ。

《オペラのトピックス一覧》

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