舞話§モーリス・ベジャールへ[Ⅱ]

《承前》

前の項で『春の祭典』こそベジャールの最高傑作と書いた。それは本
当に揺るぎのないものであるが、それ以外のベジャールの作品だって
綺羅星のごとくに傑作ぞろいである。

マーラーの第五交響曲に振付けた『アダージェット』は、ジル・ロマ
ンのと枕詞を冠してもいいくらい、ロマンが完璧に自家薬籠としてし
まった。彼だけが表現できる空気感のようなものがあって、それはま
た、初めて見た20数年前と昨年あたりとでは、まったく異なって見え
るのだった。

それは“円熟”と呼ぶ類のものだろうと思うが、ジル・ロマンのよう
な踊り手のおかげで、一つの作品の表現が変化していく様を見ること
ができた。若かった頃の『アダージェット』と、ダンサーとしての盛
りを過ぎつつある時に見た『アダージェット』のまったく違った味わ
いの違いに、舞踊の奥深さを思い知らされたのだった。

書くのが後に後にとなってしまったが、あの『ボレロ』だって、ラヴ
ェルが“そのため”に作曲したと言われても信じてしまうくらいの世
界だと思う。ごくごく単純な動きから始まって、テーブルの周囲の群
舞を巻き込んでのクライマックスまで、緻密かつダイナミックに創造
された文句のない傑作である。

彼が創造した作品を語るには、まだまだ不十分だと痛感する。

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