?話§これを趣味にしようと思います[下]

[承前]

その演奏は、当時のカラヤン&ベルリンフィルの最新録音で、後にな
って演奏時間を調べたら“32分”ということがわかり、何とも情けな
い思いを抱きつつ、なけなしのテープを再生しては聴いていたのだ。

今でも、きちんとした録音や演奏を聴いていてですら、その時のテー
プが終わる瞬間を覚えていて、ベートーヴェンの音楽が心の中で切れ
るような感じがする。

そんな思いをしながら、時間が許す限りテレビやラジオから流れる音
楽をテープに録音しては飽かず聴いていたのだった。当時を思い出し
ても、何曲も何十曲も聴いていたわけではない。ほんの数曲かそんな
ものである。

タイムマシンがあったら、orzをしていたであろうその時の自分に、
“お前がしている努力は、想像しているよりは少し多めに報われたで
あるぞよ”と教えてやりたいくらいなのだ。

クラシックが、いくぶんか自分の視界に形として見えるようになるま
でには10年以上かかったような気がする。……というか、日々新たに
“ああ、そういうことだったのか”と蒙を啓かれるような瞬間が未だ
にあって、いつまで経っても“道半ば”だということを痛感する。

若い時は若い時の、それなりの年齢に達したらその年齢なりの聴き方
らしきものが育まれるわけで、ある時期に聴いても歯の立たなかった
音楽が、ある日自分に寄り添っていることに気がつく。そんなことで
ようやく“我が趣味はクラシックを聴くことかな?”と思えるように
なったのである。

もちろん、ある人が思い立って“趣味にする”ということがないとは
言えず、例えばCDショップのクラシックコーナーの膨大な棚を前に
して、モリモリと意欲が湧きあがる人がいるのかも知れない……。

【去年の今日】享話§あの世に逝くのがもったいない

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