謎話§モーツァルト急行ミステリー[下]

[承前]

ミュンヘンまでの2時間足らず、正面の老紳士は静かに居眠りをして
いた。なまじ、こちとらが理解できない言葉で話しかけられるよりは
ありがたいことだった、おかげで我々ものんびりと車窓からの風景を
眺めたりすることができたのだ。

さて、列車がミュンヘンに近づいてきたので、棚から荷物を下ろして
列車から降りる準備を始めた時、老紳士が座る座席の下に落ちていた
物体に何気なく気がついた。

眼を凝らして見ると、どうやら“入れ歯”のようなのである。それで
同居人に座席の下を指し示して、二人で眼を凝らし見たのだが、紛う
ことなき“入れ歯”そのものが、座席の下で我が方を向いて不気味に
微笑んでいたのだった。

ひょっとしたら老紳士が落としたものではと考え“ちょっと失礼”と
身振りを交えつつ座席下の入れ歯のことを指摘したのだが、件の老人
は苦笑いしつつ“私のではない”と否定するようなニュアンスの言葉
を返してきた。

何となく釈然としない返事だったが“そうですか、それではさような
ら”と別れの挨拶をかわし、ミュンヘン中央駅のホームに降り立った
のだが、25年以上経った今でも“じゃあ、あの入れ歯は誰のもの?”
という疑問が、我が“灰色の脳細胞”から去ってくれないのである。

あるいはと無理矢理に勘繰るのなら、入れ歯は老紳士のもので、では
あるが見知らぬ外国人に指摘されて恥ずかしかったので、咄嗟に否定
してしまったのだという無理矢理な推理も成り立つのだが……。今、
思い出しても、ちょっと“ミステリ”な入れ歯騒動なのであった。
                             [了]

《海外旅行のトピックス一覧》

この記事へのコメント

2008年06月10日 18:36
それは忘れられない体験ですね。(^_^)
いいなぁ、旅は。

で真相追求ですが、わたしもかの老紳士の入れ歯であったと確信します。やはり恥ずかしかったのでしょう。
2008年06月11日 11:23
・・・謎なのであります。

ここ数年というもの、もっぱらレン
タカーでの移動になってしまって、
長距離の列車移動をしていません。
理由はといえば、ひとえに重いスー
ツケースだったりするわけですが。

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