憬話§このたびの旅[21]ワルキューレ<Ⅲ>

画像
↑祝祭劇場のアンニュイな黄昏

[承前]

第三幕の前奏曲で予想通りというか“ティーレマン節”が炸裂した。
“ワルキューレの騎行”の主題が金管の低音で再現されるところで、
ギアを落として思い切りテンポを重くしてくれたのだった。お好きな
人にはたまらないだろうが、個人的には“テンポを落とし過ぎ”だと
感じてしまう。

そんなことをわざわざしなくてもなあと思っている我々は、その瞬間
肘をつつきあって“しょうがねえなあ・・・”苦笑することになる。
そういう“あざとさ”を別にして、音楽の調子がどんどん上がってき
ているのはうれしい。

“ワルキューレの岩”は採石場である。そんな中に場違いとも思える
衣装でワルキューレ達が登場してくる。そのあたりの齟齬が自分自身
の中でクリアできないである。もっとも、おかげで音楽が取り込まれ
る量は多く、だからというか逆に舞台の状況を観察するのがお座なり
になってしまっている。

我々の左に座った老紳士は、四夜すべてで上演が始まると眼を閉じて
頭を垂れてしまうのだ。そして幕が閉じると、隣に座るわが同居人を
じっと見やるというそんな毎夜だった。彼が上演中に眠ってしまって
いるかどうかはわからぬが、音だけに集中しているとすれば実に賢明
で幸せなことではないかと思った。

ところで、神性を剥奪されたブリュンヒルデは、大八車のような木製
の寝床に眠らされる。彼女を囲む炎は、電気コンロの出来損ないとで
も表現できるようなそんな“ヒーター”のように発火し、ひとしきり
講釈を垂れたヴォータンはもたもたと立ち去っていったのである。

『ラインの黄金』の時点でそんな舞台だとあっさり諦めのついていた
我々二人は“神秘の奈落”からの音楽を反芻しつつホテルに戻るので
あった。……それにしても音楽は本当に好調なのだ。

明ければ一日のお休みである。
                            [続く]

《クラシックのトピックス一覧》

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック