憬話§このたびの旅[26]ジークフリート<Ⅱ>

[承前]

続く第二幕、ファーフナーの洞窟とそれを囲む森の上を、工事が中断
したまま未開通の高架線路が伸びている。高架の上に張られたテント
から2人の建設作業員が奥へ消えていった。……やっぱり意味不明。

登場人物は台本の通りに動くだけで、そこに何か新鮮な発見のような
ものがあるわけではない。あまりにもルーチンに過ぎて緊張感も失わ
れてしまい、だから歌手の歌声が奥底まで届いてきてはくれない。

声だけだったら、1991年のジークフリート・イェルザレムはグールド
の敵ですらない。だがしかし、演出と音楽の相乗効果でもって、掠れ
声だろうが音程がはずれようが、そこには尋常ならざる緊張感が生ま
れるのだ。

そういったことこそ“実演”の持つエネルギーなのだと、今回の淡々
と不感症のような『指環』を観ていて思ったりする。ファーフナーを
殺し、指環と隠れかぶとを手に入れたジークフリートは、小鳥の言葉
に教えられ、ミーメの企みを暴いて彼を倒し、ブリュンヒルデが眠る
岩場へと進んでいく。

……まるでロールプレイングゲームの元祖のような筋立てだと思いな
がら二幕が終わった。そういえばホットドッグをパクついている時に
立食テーブルで差し向かいになったフランス人から話しかけられた。
欧米の人間にとっては、遠路はるばるバイロイト詣にやって来る東洋
人に興味津々のようで、こちとらがフランス語を話せないとみるや、
これまた相当に怪しい英語でコミュニケーションを試みてくる。……
フランス人は英語を話さないというのは、バイロイトのような有象無
象の人間の集まりにおいては既にして迷信なのである。

彼らの質問の第一は“なぜ日本人がワーグナー(西洋音楽)を”という
ところから始まる。それから“バイロイトは何回目か”と問われるが
それは自分達にも質問してくれという呼び水だったりしていて……、
だから“あなたはいつからで何回目?”と問うと、待ってました!と
ばかりに“1976年、シェローのリングの最初の年”と答えて、我々を
羨ましがらせてくれるのである。
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