憬話§このたびの旅[41]パルジファル<Ⅳ>

[承前]

魔法の花園から、舞台は第二次世界大戦に変わる。そして戦後のバイ
ロイト音楽祭史上で初めて、舞台上にハーケンクロイツの旗が下りた
のである。その瞬間、何人かがブーイングを発したのだった。

あらかじめ二幕のハーケンクロイツについては知っていたが、実際に
あの劇場空間で目の当たりにした時の居心地の悪さというものを想像
してもらいたい。

・・・ではあるが、歴史の結果としてナチは打ち倒されてしまったわ
けで、史劇として考えるなら当然の帰結となっている。旗が下がった
だけでナチ讃美と捉えることは早計だろう。ゆえにというか、ブーイ
ングを発した人間は“どちら側”なのだろうかと思った。

素直に考えれば、いかなる形でもナチというものが舞台に具現化され
ることを否定するという立場の人間なのだろうが、見方を変えると、
あるいはナチ肯定派の人間が発したということも考えられる。

なぜなら、ナチとしては自分達こそが“聖杯の騎士”であると任じて
いたのだろうが、この舞台ではクリングゾルとその一派という役割を
担わされたことになり、それに対する不満のブーイングと見えなくも
ないのである。

だから、ナチの信者で、同時にワグネリアンという人間達にとって、
あの光景はショッキングなものだっただろうと思われるが、これこそ
正に歴史の流れなのであるのだと、第二幕の幕が下りた時に深い感慨
を持ったのである。
                     [パルジファル<Ⅴ>へ]

付記:もっともローマ教会は、ナチと“コンコルダート”を結んでい
て、その活動を“いわば黙認”したという経緯もあるのだが……。


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