鍵話§アンスネス~オペラシティ~

去年に引き続いて楽しみにしていたレイフ・オヴェ・アンスネスのリ
サイタルである。それで、2日前に観た『コシ・ファン・トゥッテ』
よりも充足感はあった。

前回聴いたさいたま芸術劇場からオペラシティとキャパシティが倍く
らいになった会場が静まりかえるのは、何とも異様で居心地が悪い。
数百人の静寂と、1000人以上がいる空間の静寂とでは質がまったく違
うことに驚く。だから、ヤナーチェクの時のホール空間は、ちょっと
息が詰まった。

アンスネスの、彼が打鍵することで出てくる芯のある音の美しさ。そ
れと当たり前のことながらミスタッチが見当たらないこと。あと残響
の多いオペラシティで弾くについてのコントロールができていた。

ヤナーチェク:霧の中で
シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958

――休憩――

ドビュッシー:前奏曲集より
       ビーノの門(第2集より第3曲)
       西風の見たもの(第1集より第7曲)
       ヒースの茂る荒地(第2集より第5曲)
       とだえたセレナード(第1集より第9曲)
       オンディーヌ(第2集より第8曲)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2

―アンコール―
ドビュッシー:アナカプリの丘
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第13番 3、4楽章
スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K.492


前回もそう思ったが、本当に美しい響きを醸し出せるピアニストだと
しみじみ思う。だから、何が何だかまだ理解しているとは思えない、
シューベルトの後期ソナタの様々な旋律が浮かび上がっては消えてい
く、そんなシンフォニックな様をぼんやりと見送っていた。

楽しみだったのはドビュッシー。第1集と2集からの5曲というのは
不満である。いつも思うことは、こういうのは12曲をきちんと演奏し
てもらいたいということである。それはともかく、体温の感じられる
ピアノの音で、愛聴しているミケランジェリの突き放した尖がった音
色とはまったく別物の響きが伝わってきた。フォルムの美しさは別格
である。

最後のベートーヴェン、感心したのは第一楽章。あまりにもポピュラ
ーな月光のメロディーを、最初から最後までノー・ブレスで、息長く
切れ目のない長い弧を描くがごとくに弾ききったのだ。

アンコールは3曲。アナカプリは本プロのドビュッシーよりもさらに
美しい響きで、やっぱり出し惜しみなどせずに全曲演奏して欲しかっ
た。そして最後のスカルラッティがまた絶品。軽めのタッチで表情豊
かにパッセージを弾き分けて“聴かせて”くれた。

《ピアノのトピックス一覧》

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック