維話§初めてのウィーン[11]こうもり(下)

[承前]

もう一人驚いたのがオルロフスキーを歌ったブリギッテ・ファスベン
ダー。登場するまでは名前も知らず、歌った瞬間に“えっ、女性?”
という体たらく。もちろんクライバーが指揮をした『ばらの騎士』の
オクタヴィアンといった“ズボン役”で有名だということすら知らな
かったわけで、まだ結婚以前だった同居人に帰国報告をしたら、大い
にからかわれてしまったのである。

……いやその、あれは本当にけっこう衝撃だったのだ。

とにかくドイツ語も何もわからないのには閉口した。大まかな粗筋だ
けで臨むと『こうもり』のような台詞が満載の芝居はチンプンカンプ
ンで、周囲が笑ってもポカーンとしているのが何とも情けなかった。

特に三幕、刑務所オフィスにおける所長と看守のやり取りなど絶望的
ですらあった。何だかわからんがおもしろいことを言い合っているの
だろうなあと思いつつ、彼らの演技で辛うじて笑わせてもらっていた
に過ぎない。

エーリッヒ・クンツについては前述したとおりで、本当だったら日本
公演にも参加して『ナクソス島のアリアドネ』の執事を演じるという
予定だったらしいが、惜しくも不参加となった。看守フロッシュを演
じたヘルムート・ローナーはウィーンで人気の役者で、その後何回か
オペレッタに登場しているところを楽しませてもらったのだ。

こうしてウィーン旅行における最初の無謀な劇場体験が終わる。それ
にしても何も知らないものだと猛省しつつ、それでも二幕の回り舞台
による舞台転換などの記憶を反芻しながらホテルに戻ったのである。
                            [続く]

《オペラのトピックス一覧》

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック