戯話§モーツァルト~テンポの重力に抗う~

フリードリヒ・グルダが弾いているモーツァルトのピアノ・ソナタを
聴いた。変ロ長調のKv.333である。

聴きながら、いかに冒頭からのテンポを歪めさせずに演奏することが
大変なのかということを感じた。最初の“タラララ”という下降音が
“地球の重力”に引き込まれてしまうと、テンポはいくらでも速くな
りそうな気がするのだ。それで演奏を続けようものなら間が詰まって
前のめりになり、音楽の態をなさなくなってしまうだろう。

もちろん、そのあたり百も承知のグルダは、最初の下降音のテンポを
重力に引っ張られることなどなく、音楽を中空に保たせたまま次の音
を紡いでいく。テンポが安定しているから音符の一つ一つの粒立ちも
揃っていて、聴く者を不安にさせることなどないのだ。

素人からすると至極簡単そうに思えるが、できそうでできないことで
あるのは明白で、それができるからこそのプロなのだろうと思った。

いずれにしてもモーツァルトのピアノ曲の難しさは、弾けない身から
しても別次元のものではないかという気がしている。などとしたり顔
で書きつつ、何かないかなと画像での演奏検索をしてみたら、7歳の
少年の演奏が目に留まった。きちんと端正な音楽になっていたことに
驚いた。他にも彼がショパンとかを弾いている映像もあったが、グズ
グズなショパンになってしまってうたのに、モーツァルトは実に清澄
な音楽で手垢にまみれてということもなく“無心”とはこういうもの
かと思ったのである。

《ピアノのトピックス一覧》

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック