復話§新国立劇場『ワルキューレ』[Ⅳ]

[承前]

四夜を通じて最も印象的な舞台のひとつが第三幕の“ワルキューレの
騎行”からワルキューレ達が去っていく場面である。初演時から“看
護師”に扮した歌手の弾けた動きには感心させられた。そこには日本
人がワーグナーをという違和感の欠片もなかったのである。

それこそキース・ウォーナーが最も心を砕いた部分ではないだろうか
と想像するのだ。なまじな色使いをしようものならチンチクリンにな
るのが日本人の西洋物というイメージを、白一色の衣装にしたという
大胆さが功を奏して、何の不自然さもない舞台になっていたのは驚き
だった。その印象は今回も変わることがなかった。

そして、ワルキューレ達とワルハラが奥に遠ざかっていくシーンは、
新国の三面舞台を活用しきって見事な風景を形づくっていた。ワルハ
ラが空中に浮遊しているかのような舞台は、音楽との完璧なシンクロ
で印象深いものになていた。この場面で多くの演出は8人のワルキュ
ーレがぞろぞろ歩いたり走ったりして舞台から去って行くのだが、こ
うしてストップモーションのように後方に消えていったのは、何がな
しヴォータンの“本気の力”を見せつけられたような気にもなる。

その後、ブリュンヒルデの神性を剥奪し眠りにつかせるのだが、ここ
でもつい“親馬鹿”を発揮して、英雄だけが越えられる炎で囲ってや
る情けを見せてしまう。二幕で“終末だ!”と叫んでいながら、英雄
の来訪を待ち望む……それは微かな希望にすがりつくということなの
だろうか。

あるいはヴォータンの片眼には既に行く末が見えてしまっているとい
うことなのか。というところでブリュンヒルデは一年の眠りにつき、
お目覚めは来年の2月の予定である。
                    [ジークフリートに続く]

憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08

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