拜話§バイロイト初詣[15]ワルキューレ<上>

[承前]

1988年、この指環新演出の年に年末のFMを聴いていて聴いてみたい
と思わせた歌手が、ジークリンデを歌ったナディーヌ・ゼクンデだっ
た。スピーカーから流れてくる歌声の実に凛としていたこと。

というわけで4年間待ち続けた彼女の声をようやく聴くことができる
のである。バレンボイムの指揮は絶好調で、第一幕の前奏曲から全開
で鳴り響いてくる。

幕が開くと舞台奥まで“歴史の道”が長く長く続いている。そんな奥
からジークムントが逃げてきた……地面からトネリコの木は生えてい
るが、フンディングの家はない。と思っていると舞台が手前から厚い
表紙をめくるように上がり、その先端にいたジークムントがへりにぶ
ら下がってフンディングの家の中に飛び降りた。

視覚的に舞台上にあるべきものが存在せず、客がじれているとぎりぎ
りの段階でそれが舞台上に現れてくる……こういうやり方が、クプフ
ァー演出の特徴なのだと後で知ったのである。

ジークムントを歌ったのは偉丈夫のポウル・エルミング。見た目は完
璧なジークムントであるが、不思議なことに声のスタミナが今ひとつ
で、あれれっと思うとパワーが落ちてきてしまったりするのだった。

ということとはまったく別に、この『ワルキューレ』の一幕は3人の
登場人物――フンディングはマティアス・ヘレ――の見映えが抜群だ
ったと今でも思い出すのである。

そしてゼクンデは、十分に期待に応えてくれたのだ。
                            [続く]

憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08

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