拜話§バイロイト初詣[18]ジークフリート

[承前]

たぶん、これ以上にエキサイティングな『ジークフリート』第一幕の
舞台を観ることはないだろう。それほどに二人の歌手……ミーメのグ
レアム・クラークとジークフリートのジークフリート・イェルサレム
のアクロバティックな舞台に客席は沸きに沸いたのである。

原子炉の廃墟、あるいは廃棄されたSLのタンクとあれこれ解釈でき
るミーメの鍛冶場。そんな舞台装置を使って二人が縦横無尽に走り動
いたのだった。

それで正直なところ、舞台の動きにばかり集中してしまって、歌がど
うだったのかということの記憶はない。ただしバレンボイムの音楽の
うねりは舞台とシンクロしていて、音楽的体験というよりも、むしろ
体感的な印象のほうが強かったりする。

一幕に比べると二幕の洞窟の場面の舞台装置は全体に暗めで、全体像
を把握することが難しかった。演出でおもしろかったのは、ヴォータ
ンが小鳥を操っていたことである。釣竿の先の小鳥がジークフリート
を導くという仕掛け。この時に舞台裏で“ジークフリート・ルフ”を
担当したのが、ベルリンフィルの名ホルン吹きゲルト・ザイフェルト
だった。バイロイトで100回以上もあのモチーフを吹いたのだそう
で、こりゃあもう安心して聴けましたとさ。

という一幕と二幕の後の第三幕は、あっさりと“歴史の道”が伸びて
いるだけというもので、噂話では“さすがのクプファーも三幕は手の
施しようがなかった”と皮肉めいたもの言いがされていたのだった。

『ジークフリート』と『神々の黄昏』でブリュンヒルデを歌ったのは
イギリス人のアン・エヴァンス。ポラスキー不調の間、バイロイトの
ブリュンヒルデを支えたのは彼女だった。まとまりはあるものの爆発
的な表現は望むべくもなかったが、十分に聴ける水準の歌手である。

と『ジークフリート』が終わり、何やら大きな山を越えてほっとした
というのが正直なところで、明日も休日なのはありがたい。
                            [続く]

憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08

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