拜話§バイロイト初詣[21]オランダ人

[承前]

『神々の黄昏』が終わり、すっかり気が楽になった。おまけにこの日
は遅い時間に始まる『さまよえるオランダ人』だから、長めな散歩を
したりで、バイロイトでの残り少ない日々を味わうのだった。

そうして劇場の座席にたどり着こうとすると、すぐ後ろから声をかけ
られた。同宿のイギリス老婦人で、昨日の『神々の黄昏』第三幕で、
ラインの少女たちが髪の毛をブラシで梳くとどんどん抜けていくのが
気持ち悪かったという感想だった。確かに観て気持ちのいいものでは
ないが、演出のコンセプトが核戦争後の世界みたいだったりするわけ
だし。それで、この時はそういう会話を交わすのに慣れていなかった
ので“はあまあ”と曖昧な返事しかできなかった記憶がある。今だっ
たらもう少し何がしか付け加えたりして会話になったかもしれない。

前置きが長くなったが『オランダ人』の舞台である。実演を観るのは
これが初めてというのが何とももったいない。ワーグナーの実演の少
なさというハンディに泣かされるのはこういう時だろう。たぶんおそ
らくバイロイトに来る欧米の客は、そんな日本の事情を知ったら驚い
たことだろう。

演出はディーター・ドルン、美術はユルゲン・ローゼというミュンヘン
のチーム。ジュゼッペ・シノポリの指揮で、オランダ人を歌ったのは
ベルント・ヴァイクル。

一番の見ものは、ゼンタとオランダ人が二重唱する間にゼンタの家が
グルリと360度一回転すること。聴衆はそれに見とれて二重唱の記
憶がなかったのではというくらい。ローゼらしく趣味のいい衣裳と装
置は上演全体をわかりやすいものにしてはいたが、とにもかくににも
初めて観たものだから、ちゃんと把握したというところまでは行かず
じまいだったのは残念である。

感心したのは合唱。特に女声の“糸紡ぎ歌”は20人足らずで歌われた
が見事な精度で、合唱指揮者ノルベルト・バラッチュの腕の確かさを
感じさせてくれた。

重複するところも多いが、この時の鑑賞記録はここにもある。
                            [続く]

憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08

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