ト話§『研辰の討たれ』アドリブ勘三郎

[承前]

一つだけ、ちょっとなあとは思ったが、いかにも勘三郎らしい芝居の
最中における例を挙げる。以下の台詞は『研辰』の冒頭、辰次が剣術
の稽古をつけてもらう場面のものである。

奥方:それも道理じゃ、九市郎、才次郎、両人立ち合ってくだされ。
両人:畏まりました。
平井:はじめ。

ここには勘三郎演じる辰次の台詞など一言も入ってはいない。ところ
がDVDで観られるこの場面で勘三郎は、3行の間に反射神経的アド
リブか考えてなのか巧み(?)な“いれごと”をしている。つまり……

あっ、ぼっちゃん。うれしいねぇ、ぼっちゃん1号ぼっちゃん2号

とやらかした挙句とどめに、まったくもっての馬鹿馬鹿しい一言……

ぼぼぼ ぼっちゃん! ・・・ぼっちゃんちゃん!

……などと、稽古のお手本を見せようとする二人(染五郎、勘太郎)の
後ろではしゃぎまくるのである。おそらくこれがアドリブであろうと
いうことは、木刀を構えた染五郎がとうとう耐え切れずに口元が緩み
必死に笑いを堪えようとしているのが画面から窺えるのである。それ
にしても何と寒い“おやじギャグ”であろうかと、同世代としては複
雑な気分でもあるw

そんな二人の模範稽古が終わった後のつぶやき……

今、九市郎は笑いを堪えていたぞ!

……ああ、どこまでもとことん突っ走る勘三郎なのだった。
                            [続く]

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