職話§ハンス・ザックスのこと

古いオペラ舞台で『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の写真を
見ると、靴屋の親方で男やもめのハンス・ザックスは、白髪に髭を長
く生やした七十に近い老人だったりした。

ところが、実際の舞台を観ての印象からすれば、ハンス・ザックスの
年齢はどうみても四十代半ばといったところである。それくらいの年
齢でなければ、二十歳前のエヴァが恋心を抱くとは思えないではない
か。

昔のザックスでは敬老精神は芽生えても、恋心までは至ることなどは
あるまい。今さらながらだが、ワーグナーの台本から創り出されるザ
ックス像は、親方衆の寄り合いの時に見せるフットワークの柔軟さに
端的に見て取れる。それで決して老人の知恵みたいなものではない。
せいぜい、エヴァの父親ポーグナーとどっこいの年齢だろう。

いつだったか、ベルリン・ドイツ・オペラの日本公演で『マイスター
ジンガー』が上演された。その時、ザックスの部屋の壁にイタリアの
コメディア・デラルテの登場人物アルレッキーノの衣装が掛けられて
いた。

あるいは謝肉祭の催しか何かでイタリア喜劇が上演され、その時には
エヴァもコロンビーヌで共演したのだろう。その時、ザックスの演技
や動きを見たエヴァがザックスを再認識したということは考えられる
のである。まあそんな想像をさせてくれた演出なのだ。

という相変わらず呑気かつ長閑で思い込み過剰なイメージをしていた
頃、自分自身がザックスと同世代に差し掛かりつつあったということ
を思い出したのである。

《憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08》

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