懐話§昭和三十年代~どぶ川~

[承前]

街中であっても下水道が通っていなかったのが昭和三十年代である。

我が家の周りにも、幅1m足らずのどぶ川が流れていた。それも一本
や二本ではない、本当にあちこちに流れていたのだ。

流れはきれいとはいえない。台所や風呂場から出る生活排水に加えて
絹織物のための染色工場から流れてくる色水などもあった。そればか
りではなく、今では考えられないことだが、家の近くにあった肉屋の
裏手の川沿いで鶏を捌いていたのだ。

籠の中に押し込められている生きた鶏を一羽一羽取り出してはナイフ
で締めて処理をする……そんな様子を、学校帰りの近所のガキどもが
飽かず眺めていたというのは、いかにも昭和の時代だったと思う。

今どき肉屋がそんなことをしようものなら、近所からの苦情が雨霰と
なって降り注ぐことだろう。

家の近くを流れていたどぶ川は、通りに出るといくつかのどぶと合流
した。それが流れ着く先は“大どぶ”とでも呼ばれそうな用水で、流
れ流れて太平洋へと注がれていったのである。
                            [続く]

【去年の今日】札話§遅かりしPASMO定期券

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック