懐話§昭和三十年代~傷痍軍人~

[承前]

昭和30年代、とっくに戦後ではなくなっていた世間ではあったのだが
祭りや縁日になると、兵隊の帽子に白衣姿の傷痍軍人が現れ、アコー
デオンやハーモニカを吹きながら物乞いをしていたのだった。

確かに20歳かそこらで終戦を迎えた元軍人は、昭和30年代には三十代
なわけで、戦争で傷ついた人間達はいくらでも存在していたのだ。

身近な大人によれば、そうしたことをしている多くがニセ傷痍軍人で
あって、そうでなくとも傷痍軍人は国からきちんと補償をしてもらっ
ているから、あんなことをする必要などないなどと言っていた。

そういうものかと思いながら、お涙頂戴のような哀愁たっぷりの軍歌
をハーモニカで吹いていると、立ち止まっていくばくかのお金を入れ
ていく人は珍しくなかったのである。

……と、気がついたら傷痍軍人の姿が消えてなくなっていた。それが
いつの頃だったか確かな記憶がない。

ただ、彼らが本物であれ偽者であれ、その姿で戦争の影を感じさせる
というそんな役割のようなものが微かにせよあったのではないかと。
もちろん彼らにそんな意識があったはずなどはないのだが……。
                            [続く]

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