共話§待降節独墺旅[27]神々の黄昏

[承前]

1987年に始まる我々の指環通し行脚も何とか3回目にたどり着いた。
日本に住んでいる人間にとって『ニーベルングの指環』の通しを日常
的、年に一度とか観ることができるなどは、夢のまた夢なのである。

というわけで、ウンター・デン・リンデンにも通い慣れたと思ったら
最終日になってしまった。それで客席を見回すと、多くの人が通し券
を購入しているようで『ジークフリート』の時から“やあやあ”と軽
く挨拶をしたり、幕間に言葉を交わしたりと……ああ、これはバイロ
イトと同じ光景なのだと思った。やはりというか、ワーグナー愛好家
の律儀さ熱心さを見た気がしたのだった。

いずこも同じかなと思うのは、夫婦で来ていても話し始めると夫同士
&妻同士という組み合わせでの会話になるのだ。我々も仲間に入れて
もらえたのは、さすがに通しで観る日本人が珍しいからであろう。

神々の黄昏になってもバレンボイムの勢いは止まらず、オペラハウス
の日常公演としては特上なワーグナーを聴くことができたと大満足。

おっ、と思った演出だが、何とアルベリヒが最後の最後に指環を手に
入れてじっと見つめる……その瞬間に指環がボロボロと砕け落ちるて
しまうという。一人の勝利者なき終末とでも言えばいいのか。

黄昏幕切れの平安に満ち満ちた音楽を聴きながら。でも裏腹に世界は
ちっとも平安などではないなあと、終演後に乗った100番のバスで
ブランデンブルク門付近の、かつて存在し10年前に消滅した“壁”を
越えて旧西側へと戻っていったのだ。 
                            [続く]

《憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08》

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