振話§バッハの無伴奏チェロ組曲・・・

地震が起きてしばらくは、頭の中がそのことで埋まっていたようで、
心の余裕というものが枯渇しかかっていたようだった。

何日か経って、ふと音楽を聴いていないことに気がついて、それでは
何かをとCDの棚を眺めていて迷わず手に取ったのが、バッハの無伴
奏チェロ組曲だったのである。演奏はアンナー・ビルスマ。

楽器を演奏する人は口々に、自分の演奏する楽器を“人間の声に近い
から”と言うわけだが、そうはいってもチェロが、人間の声というか
人間の心理に添った音色を奏でているということは否定できまい。

何日かの尋常ならざる時間の中で、流れてきたバッハの音楽のみずみ
ずしかったこと。耳からだけではなく他の感覚までが音楽を受け容れ
ているような感じがしたほどである。

そして、バッハに続いて手に取ったのはベートーヴェンのピアノソナ
タだった。我が家にあるのはアルフレート・ブレンデルの録音。同じ
作品番号で括られている15~17番というのを何度か聴いた。それで、
数日の間に欠落したものが少しずつ自分の中で、補われていったよう
な気がしたのだ。

死とはモーツァルトが聴けなくなること

……と言ったのはアインシュタインだったが、我々にとってはバッハ
であれベートーヴェンであれ、そしてモーツァルトはもちろんのこと
ながら、生きているからこそ聴くことができるのだと、そのことをし
みじみと思い知ったのである。

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