道話§冬の旅~すがりつく希望~

シューベルトの『冬の旅』を聴くのは辛い。辛いのだが、時に聴かね
ばならないとでもいう気持ちになった結果、聴いてしまう時もある。

最近、聴いていて気がついたことがある。それは短調で流れていく音
楽の中に、ふとした感じで長調に変わるところがあるのだ。これまで
気がつかないでいたことだが、ちょっと興味を持って聴いてみると、
そんな長調がそこかしこで鳴っているのだ。

やるせない絶望の中、諦念を抱きつつ旅を続ける主人公が、そんな絶
望の道行きの中のふとした瞬間に何かしら微かな希望を見出そうとす
るのか、荒涼とした風景の中に明るさを見出したのか。

そんな希望は言うまでもなく幻でしかなく、短調が“いつまで夢なん
か見てるんだよ”とでもいうかのように、長調をはかないものとして
押し流してしまうかのようである。

そうして差し挟まれる長調が、どことなく現世にすがりついて未練を
残しているように感じさせることで、シューベルトは『冬の旅』の音
楽の切望をさらに強固にしたということが考えられるのではないか。

希望を隠し味とすることで、さらに絶望が強調される。何度繰り返し
聴いても『冬の旅』の世界など捉えられるものではなさそうである。

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