板話§中村座三月大歌舞伎夜の部[下]

[承前]

夜の部の勘九郎の役は『御所五郎蔵』の五郎蔵。勘九郎のまじめさが
裏目に出たかという一本調子という印象。かたや海老蔵の土右衛門は
相も変らぬ声の乱調子という居心地の悪さ。という舞台を締めたのは
争いを預かり収めた我當の与五郎。それに、借金取りとして登場した
笹野高史の吾助というベテランと手練。

こういったあたりは『傾城反魂香』における仁左衛門と勘三郎達とは
芝居の濃度に大きな差があるところで、これを徐々に埋めていくのが
若手役者の成長ということなのである。

最後に『元禄花見踊』が東西の成駒屋御曹司4人と中村屋部屋子鶴松
によって踊られた。いわば“追い出し”とも言える、15分ほどの軽い
舞台。趣向といえば幕切れ近くに舞台奥が開け放たれて、隅田川の土
手と奥の首都高を走る車などなどが見え、篝火(照明だが)が焚かれる
というもの。客席の角度によってはスカイツリーが見えたかもしれな
いという一幕は、いわばクールダウンとなってくれた。

終演後、浅草駅に向かって歩いていて、言問橋西詰にさしかかったと
ころ、橋の奥に何の邪魔もないスカイツリーが出現した。この日から
東京タワーと照明のコラボレーションで、3・10の東京大空襲と3・11の
東日本大震災の犠牲者の追悼を祈念するということだったのである。

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春寒い隅田の川風で芝居のほてりを冷やしながらの帰り道々、二日続
きの過去に想いを馳せたのだった。

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