湯話§タンホイザー~東京春祭~[下]

[承前]

というわけで、アダム・フィッシャーという名匠の絶妙な捌きのおか
げで、キリリと引き締まった音楽が展開した。

それに加え、とりわけ男声陣に人を得てのぜいたくなワーグナー上演
を楽しむことができたのである。まずもってステファン・グールドの
タンホイザー。強靭な喉――二幕最後はちょっときつかったが――と
正確な音程は、最初から最後まで維持されて、これ以上のタンホイザ
ーを望むのはなかなかに難しいことである。

ヴォルフラムのマルクス・アイヒェも美声の持ち主だったが、三幕の
『夕星の歌』はスケール感がほしかったところ。とはいえ先々も期待
できる歌手だろう。エストニア生まれのアイン・アンガーが歌った領
主ヘルマンも立派なバスバリトンで、このあたりのバランスは実に良
好と感じたのだ。……余談ながら、初日に大相撲大関の把瑠都が来場
していたようで、彼がクラシック好きかどうかは知らないが、エスト
ニアのアンガーを表敬訪問したということでしょうね。

女声の二人、エリーザベトのペトラ=マリア・シュニッツァーとヴェ
ーヌスのナディア・クラスティーヴァは、やや力不足だったか。あの
男声陣からするとボリューム不足だったかな。

『タンホイザー』の魅力の半分は各所で歌われる合唱で、これが弱か
ったら全体がしぼんでしまう。東京オペラシンガーズは、そういう意
味でしっかりとした合唱を聴かせてくれ、まさに耳のごちそうを提供
してくれたのである。

最後にバックの映像は、あまりにも月並みに過ぎて邪魔しないだけが
取り得だったようだ。字幕もところどころおかしな訳がでてきたが、
とりわけ二幕冒頭エリーザベト歌う『おごそかなこの広間よ』の冒頭
で“ごきげんよう、殿堂さん!”などという字幕がヌケヌケと出てき
た時には、椅子から滑り落ちそうになってしまった。

・・・エリーザベトは島倉千代子ではなーい!
                             [了]

《憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08》

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