懐話§昭和三十年代~ホットケーキ~

[承前]

子供心にも、その当時のホットケーキは憧れのお菓子であった。昭和
の頃の田舎町にはパーラーなどと気取った呼び名の店はなく、すべて
喫茶店という名のもとに包含されていたのだった。そんな何やらな雰
囲気と店に連れられていくと、食べるのは決まってホットケーキなの
だった。

田舎町にはしゃれた洋菓子屋などもなく、パン屋が作るシュークリー
ムあたりがせいぜいだったから、温かいケーキなどとは、まさに贅沢
な食べ物であったのだ。

ふんわりと弾力のあるホットケーキ2枚が皿の上で穏やかに収まり、
緩やかな丘の頂上にはバター片がゆっくりと溶け出している。そして
小さいミルクピッチャーには褐色のメープルシロップが出番を待って
いるという……子供にとっては、夢のような瞬間が訪れるのである。

あるいは、ひょっとしたらホットケーキがナイフとフォーク使いの初
めだったかもしれない。バターが溶け、メープルシロップのしみ込ん
だケーキにナイフを入れ、フォークで口に運んだ。

その初めての時の自分がどのようにときめいたものか、今となっては
知るすべなどないが、今でも朝ご飯で同居人が焼いてくれるホットケ
ーキを見ると、そんなうれしい気分が何がなし甦るような気がする。

それから断っておくが、パンケーキではないぞ。あれは、あくまでも
ホットケーキという食べ物なのだ。
                            [続く]

【去年の今日】週話§連休呟き~雨降る中~2011.5.7

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