悼話§吉田秀和さん(評論家)

22日に逝去した吉田秀和の訃報が流れてきたのは、5日が過ぎた日曜
日朝のことだった。98歳という年齢は、何が起きてもおかしくはない
にしても、一瞬で大きな喪失感を抱いてしまった。

彼が物した評論を一番最初に読んだのは、クリストフ・エッシェンバ
ッハが録音したショパンの前奏曲集のライナーノートだったと思う。

彼は「ルービンシュタイン達によって、爽快なショパン演奏が主流に
なってきていたのを、エッシェンバッハがもう一度19世紀サロン的な
演奏に回帰させたのではないか。彼の演奏はいわば“黒いショパン”
なのかもしれない」という内容の文章を書いたのだと記憶している。

まずもって“黒いショパン”という表現に惹かれてしまった。昔から
音楽評論の類を好んで読んでいたわけではないが、吉田秀和が物した
コンサート評の多くは、読んで納得させられることしばしばで、しか
も、ありがちな評論の文章の中に、はっとする文学的表現が散りばめ
られて、繰り返し読んでも飽きないという類のものだったのだ。

吉田秀和が身罷ったことで、直接に中原中也や小林秀雄といった先人
達と直接繋がっていた、最後の人が天に召されてしまった。

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