愉話§ヘンゲルブロック&北ドイツ放送響

トーマス・ヘンゲルブロックは、ピリオド演奏の世界の人でありなが
ら、去年はバイロイト音楽祭に招聘されたり(一年限りだったが)と、
クロスオーバー的な活躍をしている指揮者で楽しみにしていたのだ。

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5月29日のサントリーホールで開演は19時、プログラムは以下の……

モーツァルト:『フィガロの結婚』序曲 K.492
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 e-moll Op.64

ブラームス:交響曲第1番 c-moll Op.68

……という、二昔以上前の名曲プログラムそのものであるが、なぜか
こういう流れが好きだったりする。それに、そういうプログラムであ
っても中身が違うだろうという期待もあるわけで。

で、モーツァルト。コントラバス6本という大きめの編成でパワフル
でありながら硬質で引き締まった音楽が聴こえてきた。メインの前の
軽い前菜という位置づけであるにしても、この組み合わせのワクワク
感が高まった、あっという間の5分間だった。

2曲目のメンデルスゾーンは、コントラバスが4本に減ったので音量
的にはコンパクトな印象になりはしたが、独奏者であるクリスティア
ン・テツラフが実にデリケートな音色の持ち主なので、そのあたりも
考えてのことだったのだろうか。テツラフのヴァイオリンは、極細の
ガラス繊維の一本のごとくに研ぎ澄まされた繊細な音である。その分
音量は小さめで、むしろ室内楽向きではないかと考えたりもする。

協奏曲の冒頭で主題が提示される後半の走句のアップボゥで思い切り
滑ってハッとさせられた。その後もやや不安定な演奏が続いたが、本
人もそんな状況がわかっているわけで、何とか水平飛行を保とうとい
う意志が終始うかがえたのだ。アンコールはバッハの無伴奏パルティ
ータ3番からガボット。

さて、メインのブラームスである。休憩が終わって客席に戻ってステ
ージを見たら、8本のコントラバスが4本ずつ左右に分かれてという
驚きの配置になっていた。残る弦楽器の配置はヴァイオリンを対向さ
せてというもの。

全体に速めのテンポでメリハリのついた演奏が展開された中で、左右
のコントラバスの低音が、オーケストラの音色を包み込むような効果
があったことに気がつく。こうすることで、硬質な音色がいくぶんか
まろやかな潤いをもって客席に届くのである。

ブラームスの音楽が混濁することなく、時にはアンサンブルの“層”
に新しい光があてられて、こんな音楽が鳴っていたのかという発見も
ありらこちらでという耳への贈り物も。

指揮者とオーケストラの幸福な出会いを目撃したような一夜を締めく
くったアンコールは、ドヴォルザークの『チェコ組曲』からフィナー
レが耳鮮やかに演奏されて終演。

追記:カラヤンがベルリンフィルと来日した最後の演奏会でブラーム
スの同じ交響曲を聴いたのは1988年の5月。およそ四半世紀が過ぎた
同じくサントリーホールで聴く響きの違いに驚かされた一夜である。


【去年の今日】管話§グスタフ・レオンハルトのオルガン

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