町話§ピーター・グライムズ[中]新国

[承前]

オケピットから湧き起こってくる『ピーター・グライムズ』の音楽は
研ぎ澄まされた凄みでもって客席の我々を攻め立てたり、時には優し
く包み込んでみたり、実は無慈悲に残酷な響きだったり。ブリテンが
31歳に作曲したという驚き。

そして、ウィリー・デッカーよる演出(モネ劇場レンタル)と舞台が、
寒々しいイギリスの漁村とそこに住む人達の“人情”を無表情に描写
していくのである。

舞台のシンプルさゆえに、海を感じることができないという感想も聞
いたが、無機質モノトーンで舞台奥に向かって全体が傾斜している様
は、その先にある海を強烈に意識させていたではないか。

ピーター・グライムズのスチュワート・スケルトンは、まさに漁師グ
ライムスを体現しているかのように荒々しくふるまってみせるが、内
心は気弱であるという人物像をていねいに表現していた。

他3人のイギリス人歌手のうち、エレンを歌ったスーザン・グリット
ンの硬質で透明感のある声が印象的だった。特に少年のセーターに縫
いこんだ刺繍にまつわるアリアの美しかったこと。

脇を固めたバルストロード船長のジョナサン・サマーズ、パブの女将
アーンティのキャサリン・ウィン=ロジャースの存在も舞台を締めて
くれていた。

彼らを抜きにして、今回の公演は成立してくれなかっただろう。何よ
り英語の歌詞が――当然ながら――きちんと聴こえてきたのである。
これは、このオペラを体験する上でも重要なことだと痛感したのだ。
                            [続く]

《オペラのトピックス一覧》

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック