町話§ピーター・グライムズ[下]新国

[承前]

演出でグっときたのは、礼拝している村人が、聖書と思しき白い紙を
顔を覆うように上げていた場面。まさに無関心を象徴している場面だ
が、それまでグライムズのことを気にかけていたエレンが最後の最後
に膝の上に置いていた白い紙を、ためらいながらも他の村人と同じよ
うに上げていった場面だった。これこそがこのオペラの“村八分”の
本質を如実に表していたのだ。

そして、日本人歌手も健闘はしていたが、残念ながら英語の歌詞がほ
とんど聴こえなかった。これは冗談でもなんでもなく英語の発音をき
ちんとして歌うことは本当に難しいと……それは昔から思っているこ
とである。

声楽を生業にしている人達の場合、イタリア語は何とかなり、ドイツ
語も辛うじてごまかせても、英語の発音は半端でなく難しいことだと
実感したのだった。そうではあったが、三澤洋史率いる新国立劇場合
唱団の贅肉を殺ぎ取った見事なコーラスは質の高さとしては特筆物で
ある。

リチャード・アームストロング指揮の東京フィルハーモニーは、金管
の音色については不満が残ったものの、それ以外は緊張も途切れるこ
となく充実した響きを聴かせてくれたことに盛大な拍手を送りたい。

新国でこれほどに充実して説得力のある舞台を見せたのは『ニーベル
ングの指環』の舞台以来、本当に久々のことである。
                             [了]

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