永話§歌舞伎の楽しみ~遅ればせの~上

ずいぶん前に似たことを書いたような気はするが、勘三郎死去を考え
ながら改めて客席から歌舞伎を観続ける楽しみについてまとめようと
思った。

以前書いたことは、江戸期から明治にかけての歌舞伎の舞台は円熟と
いう言葉とは無縁な、むしろエネルギーがほとばしるような舞台が展
開されていたのではというようなものだったと思う。役者にしても、
当時の寿命で死んでいったはずだから、今のような六十代や七十代の
至芸のようなものは存在しなかったのではないか。

そう考えれば歌舞伎のありようも、この百年でずいぶんな様変わりを
したといえるだろう。それこそ平均寿命が延びた、その恩恵を享けて
いるのが歌舞伎の世界のような気がする。

歌舞伎役者というもの、子役時代を過ごした後は、しばらく役らしい
役は回ってこない。が、三十の声を聞くか聞かぬかで、花形としての
10年ちょっとの期間が始まる。御曹司といえども、大歌舞伎で大役は
もらえないが、二十代後半から40歳頃までは、花形歌舞伎で大きな役
に挑戦するのだ。

おじさんと呼ばれる大御所の領域には達しないものの、役によっては
“時分の花”のような瞬間を楽しむことができる、先物買いのような
期間なのである。
                            [続く]

【去年の今日】週話§土曜呟き~初雪や~

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