提話§樫本大進&K・リフシッツ演奏会

穏やかな日曜日の午後に電車を乗り継いで約2時間、所沢ミューズで
樫本大進とコンスタンチン・リフシッツが演奏するベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ3曲を聴いてきた。プログラムは以下の通り。

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ヴァイオリン・ソナタ第3番 Es-Dur Op.12-3
ヴァイオリン・ソナタ第4番 a-moll Op.23

~~~~~~~~~~~~~休憩~~~~~~~~~~~~~

ヴァイオリン・ソナタ第9番 A-Dur Op.47『クロイツェル』

[アンコール]
クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ

所沢ミューズには大ホールと小ホールがあって、買った時は小ホール
のほうだと思い込んでいたのが、よく見たら大ホールのほうだった。
座ったのは3階席正面。

前半の2曲は、なかなか音が飛んでこなかった。樫本自体が大音量で
バリバリ弾くタイプではないのかもしれないが、ピアノの音に邪魔さ
れる場面が多くて不満気味だったのである。

ただし、樫本の端正で癖のない音色と正確な音程、それに音の出だし
で雑音が混じることがないことに感心した。弓の置き方が丁寧という
ことなのだろう。

3番と4番のソナタは二十代最後から三十代冒頭に書かれているが、
音楽としてはモーツァルトらしくもあったり、バッハのようでもあっ
たり、腰の据わらない習作のようにも聴こえたのだ。それゆえにか、
前半は口開けはしたものの、瓶の中で眠っている若酒のような印象に
終始したのだった。

それが、休憩後は一転した音楽に驚かされた。4番の直後に書かれた
のがスプリング・ソナタ。ここを境にして、ベートーヴェンが自分の
型を作ったということか、クロイツェルの恐るべき完成度の高さよ。

冒頭の重音は、樫本の技術の賜物であるだろう、混じりけなく美しい
和音が響いた。この時点で、前半に感じたヴァイオリンの音量不足は
かなり解消された。

コルク栓を開けたばかりで、まるで匂いの感じられなかった赤ワイン
がデキャンタージュされたことで次第に解放されていったプロセスが
眼の前で展開したようだったのである。

緩みなく丁寧に演奏された変奏曲楽章も、フィナーレに向かって推進
していく終楽章も、樫本の緩みない音楽作りが発揮されたと言えるだ
ろう。

アンコールは、40分の大曲に疲れた聴衆をふんわりとリラックスさせ
てくれるかのようなクライスラーの音楽。本プロだけで2時間のコン
サートを気持ちよく締めくくってくれた。

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