悼話§W・サヴァリッシュさん(音楽家)

ヴォルフガング・サヴァリッシュの実演を初めて聴いたのは1973年6
月だった。NHKホールの開場記念演奏会で、ベートーヴェンの大フ
ーガと第九を指揮したのだ。

たまたま取れたチケットが1階最前列で、眼の前のサヴァリッシュが
棒を振っていたのである。

その後、N響の定期やバイエルン国立歌劇場の引越し公演でかなりの
回数を聴いたわけだが、最も記憶に残っているのは、1988年の引越し
公演で上演されたリヒャルト・シュトラウスの『アラベラ』だろう。

あらかじめチケットを買っていた公演は、アンナ・トモワ=シントウ
のアラベラ、トマス・アレンのマンドリカという組み合わせだったの
だが、何となくピンと来るものがないままに終わったのである。

そこで平日公演でチケットが残っていたルチア・ポップとベルント・
ヴァイクルの日を無理して買って出かけたら、これが大当たり。音楽
の艶のようなものが格段に違っていて、熟れに熟れたシュトラウスの
音楽が零れ落ちてくるのを目の当たりにした最終幕だった。

その他、同じ引越し公演における『ニュルンベルクのマイスタージン
ガー』や、1992年に猿之助(現・猿翁)が演出した『影のない女』など
記憶に残る音楽を聴かせてくれたのだ。

思い出深いことがもう一つ。1987年7月にオペラフェスティバルで、
ミュンヘンに一週間滞在した。到着翌日の朝、歌劇場まで散歩をした
のだが、その時サヴァリッシュが“出勤”してくるところに出くわし
た。

鍵束を取り出したサヴァリッシュは、歌劇場の一番後ろの扉を開けて
中に消えていった。ほんの1分足らずのことだったが、いかにもな情
景だったと今でも懐かしく思い出すのである。

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