接話§マイスタージンガーと夏至

1868年6月21日、ミュンヘンの宮廷劇場でワーグナーが作曲した楽劇
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』が初演されている。

夏至の時期に行われる“ヨハネ祭”にちなんだ作品が、そんなタイミ
ングで初演されていたことについては特に気にしたことがなかった。

歌舞伎の場合だと季節と上演する狂言の結びつきが強く感じられる。
例えば『髪結新三』には初鰹を売る魚屋の「かっつぉ、かっつぉ!」
という威勢のいい声が劇場内一杯に響き渡ると、一瞬にして初夏が舞
台の作品だと理解することができる。

この舞台は初鰹だけではなく、俳句“目に青葉 山ほととぎす 初鰹”
の青葉とほととぎすも登場している。新三が暮らす長屋の場面でほと
とぎすが“テッペンカケタカ!”と鳴き、長屋に戻ってきた新三が、
縁側の盆栽に水やりをする……これで全部が使われているのだ。

翻って、オペラで季節感をイメージさせる作品がどれほどあるものか
と思い巡らしてみた。出てきたのはプッチーニの『ラ・ボエーム』の
クリスマスのパリ。上演されるのもまた冬の風物詩ということだが、
さて他にはと考えても、それほどは出てこない。

ヨハン・シュトラウスのオペレッタ『こうもり』は大晦日が舞台であ
るということと、リヒャルト・シュトラウスの『アラベラ』は2月の
舞踏会シーズンというあたりは思いついたのだが、さて他には……。

ところで、マイスタージンガーでは“にわとこのモノローグ”が季節
感をよく表現していると思うが、それとてあくまでも素材の一つとし
て使われているに過ぎず、歌舞伎に見られる感性は、日本人ならでは
の季節感が創り出したものなのである。

《憬話§我々の“バイロイト音楽祭”2008.08》

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