追話§故郷に聳える名もない山

生まれ故郷の町外れに標高372mの小さな頂がある。実家のある路地か
ら表通りに出て少し歩けば、すぐにその姿が見える。頂上まで樹木に
覆われていて特徴らしきものはないが、山容は優しい。

↓こんな山です
画像

物心ついた時から東京に出るまでの18年間、朝な夕なにその姿を眼に
していた。おまけに中学校3年間の通学路の真正面にあって、あたか
も、その山に向かっていくかのような日々だったのである。

臭い表現を使えば“心の風景”のようなその山に、名前が付いていな
いということを、何十年も疑問に感じていなかった自分に驚いている
自分がいる。

さらにこの山は、町から近くて手ごろな高さであるにもかかわらず、
登山道が存在していない。まあ藪こぎでもして登った人間がいないわ
けでもないだろうが、ネットを検索しても登頂したとかいう話を見か
けないので、本当に町から眺めるだけのようだ。

もう一つ、名無しの山からは市街地を挟んで西側にある標高481mの山
には名前がついていて、しかも卒業した高校の校歌にも山名が織り込
まれているという優遇ぶりなどとは大違いだったりする。

理由になるものかどうか、その山がある地域は、昭和30年代半ばまで
県境を接する隣県のもので、その後我が市に越境合併したのだ。我々
の方向から眺めると山の形はわかるが、以前の県ではいくつかの山に
紛れてしまうような気がするのだ。

山の名前があろうがなかろうが、人間の記憶の中に深く刻み込まれる
存在もあるということである。

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