盆話§竹本住大夫~引退を惜しんで~

竹本住大夫が文楽の義太夫語りから引退するのは、老齢であるにして
も、実に残念なことである。

たった一度だけ住大夫の語る義太夫を聴いたことがある。もう10年近
く前になるだろうか、場所は隼町の国立劇場小ホールの文楽公演。

文楽公演は行かねば行かねばと思いながら、結局のところ数回と“つ
離れ”できていない状況なのだ。それでも数回出かけているのだから
住大夫の床をもう少し聴いていてもいいはずなのだが、残念ながらの
一回だけ。

演目を失念するというのもはなはだ情けないが、ともあれ演目の切り
の義太夫語りとして登場した。

一般的な義太夫語りのイメージはといえば、しわがれた声を振り絞っ
て、切々とうなりまくるというものだと思うのだが、住大夫の義太夫
は何の力みもなく、声がしわがれているということもなく、どちらか
といえば声量があるとも感じられなかったのである。

そんな住大夫の義太夫には、他の大夫とはまったく違う声のオーラが
漂っていたのだ。まずもって端正であり、我々が座っていた最後列の
席まで一本の真っ直ぐな糸が繋がったかのように、一点一画揺るがせ
のない声が届いてきたのだった。

ああ、これまで聴いていた義太夫は何だったのだと思い、義太夫に抱
いていた誤りまくりの先入観がきれいさっぱりと崩されたのである。
そんな住大夫のような域に近づく大夫が、この先出てくるだろうか。
いや、出てきてほしいし、出てこなくてはならないのだ。

住大夫の引退公演は大阪で4月に。東京では5月に予定されている。

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