辞話§引退するということ・・・

文楽義太夫語りの竹本住大夫が90歳を前に引退することで“引退”と
は何だろうと考えてみた。

そこで思い出したのが王貞治である。現役最多の868本というホー
ムランを叩き出し1980年に引退したが、その年に打ったホームランは
30本である。

普通の選手であれば、ホームラン30本は何の文句もない立派な数字な
わけで、胸を張ってシーズンオフの契約更改に臨むことができるだろ
う。そんなホームラン本数を残して王貞治は引退した。ちなみにホー
ムラン以外、打率については2年連続して3割を切り、1980年は2割
5分に届かなかったりということが影響していないとはいえまい。

世間的に見ればまだまだ現役として活躍できるところを引退する。そ
んな心境はいかばかりなものかというところで住大夫に戻ってみる。

住大夫は重要な段である“切”を受け持つ、義太夫語りのホームラン
バッターとして君臨してきた。それが、加齢による体力の衰え、ある
いは病気の時期を経て“切”を務めることが難しくなった……そうで
あるなら自ら身を引くしかないというのが住大夫の結論なのだった。

“切”から身を引くことは、すなわち義太夫語りからの引退を意味す
るわけで、切は語らないが軽い段はというわけにはいかない。それは
ホームランバッターとしては務まらないが、ヒットを打つことで現役
を続けるという、そんなわけにはいかないのが王貞治なのである。

自分の果たすべき役割が全うできなくなった時が、すなわち引退とい
うことで、格を落として現役にはしがみつかないということなのだ。

《老化のトピックス一覧》

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