懐話§昭和三十年代~ドブ川~

[承前]

実家から路地を抜けて表通りに出る途中にドブ川が流れていた。幅は
1mもなかったが、昔はそんなドブ川が街のあちこちに姿を見せてい
たのだ。

ドブの中には川の本流からきれいな水を染色工場に流し入れてという
織物産業の街ならではな役割もあったはずだが、多くは生活排水が流
れ込む、下水代わりの存在なのだった。

そんな我が家近くのドブ川に肉屋の裏口が面していた。そんな裏口が
作業場になっていて、店の人が竹編みの籠に入っている鶏を一羽一羽
取り出しては喉首をナイフで切って絞めるのである。

そんな様子を小学校から帰ってきたところで友達と眺めていたのだが
今にして考えれば、街中で生きた鶏を絞めるなどと、衛生状況がどう
だとかこうだで問題になったに違いないのだが、何せ50年近くも前の
話。昭和三十年代とは、いまだ戦前の残滓が色濃く残っていたのだ。

高校を卒業して田舎町を去る頃には、街中の下水道網には体裁がつい
て、鶏の血が流されていたドブ川は、いつの間にか姿を消していた。
                            [続く]

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