叙話§ラドゥ・ルプーのシューベルト

このところ家ではラドゥ・ルプーが弾くシューベルトのピアノ・ソナ
タばかり聴いている。何というか、聴いていてしっくりし過ぎるくら
いなのだ。第13番 A-Dur D664がそれである。

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それは、モーツァルトとは違う、ベートーヴェンとは完全に異にして
いて、夭折したシューベルトならではの、それも22歳という青春真っ
ただ中の作品なのだ。

少しばかりセンチメンタルというかメランコリックというか、2楽章
を挟んだ1、3楽章は、涼やかな初夏の風が吹き抜けていくかのよう
な趣きで、何度繰り返して聴いても飽きることのない佳曲といえる。
ルプーは、そんなシューベルトの若書きを、彼の持ち味であるリリッ
クさを前面に、透明感あふれる仕上がりになっている。

今を過ぐる35年前、スヴィヤトスラフ・リヒテルが何度目かの来日を
した時の公演に行っている。リヒテルはプログラムの発表が遅くて、
チケットを買った時点では当然ながら未定。その時は、当日の会場で
オール・シューベルトということを知ったようだ。

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もちろん、シューベルトのソナタなど、録音も持っていなければ、一
回として聴いたことがなかったので、第一音が鳴って以降は何一つと
して覚えていないという情けなさなのだった。

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そんな4曲の中にD664が入っていたのだ。35年の時空を経た今、よう
やくこのソナタを楽しんでいる自分がいる。そしてそれは、ちょっと
ばかり悔しいという思いも抱いてしまった。せめて今くらいの耳を持
っていたら、リヒテルの演奏をどのように聴いたのだろうかと……。

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