板話§六月大歌舞伎夜の部~名月八幡祭~

本当は昼の部、仁左衛門が故障から復活出演した『お祭り』も観たか
ったが、どうにもスケジュールが合わずに断念。15分ほどの踊りなの
で幕見も考えたが諦めてしまった。

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で、夜の部の三本立てを先週土曜日に観てきた。まずは三代目尾上左
近襲名披露狂言『蘭平物狂』である。2002年6月の松緑襲名披露でも
上演された。あれから12年、十分こなれた上演を観ることができた。
これでもかこれでもかと20分以上続く劇団の立回りに、疲れた素振り
の片鱗も見せることのなかった松緑も見事。

一子繁蔵を演じた左近は、顔つきが祖父の辰之助(三世松緑)のような
印象で、そうなると先々が楽しみであるが、あと30年生きなくては。

二本目の狂言『素襖落』は太郎冠者を幸四郎が。以下、左團次、彌十
郎、錦吾、高麗蔵、亀寿という顔ぶれ。……『素襖落』という明るく
他愛のない喜劇に幸四郎がはまらない。なぜ、かほどにこねくりまわ
すものかと。笑いの少ない50分間だった。

最後の『名月八幡祭』は、実はあまり期待していなかった。芸者から
愛想尽かしをされた田舎者が芸者を殺すという筋を読んだ時に思い出
すのは当然ながら『籠釣瓶花街酔醒』で、およそ似たような展開なの
だが、純朴な縮屋新助を演じる吉右衛門がすごい。

特に気が狂ってからの呆けた顔とは裏腹の殺意の恐ろしさ……侍が、
人ごみで邪魔にならないようにと背負った刀を、上手からふわふわふ
らふらと歩いてきた新助がすれ違いざまに、ひょいと抜いて持ち去る
ところ、そして茶屋横の立て簾から突然現れた時の狂気と殺意に満ち
た表情。芝居を観ていて背筋がゾっとしたのは久しぶりである。

芝雀の芸者美代吉、歌六の魚惣とのアンサンブルも上々。翌日が12時
開演のコクーンだったので、念のためにと車で往復したのは正解で、
ずいぶんと楽な歌舞伎連荘一日目となってくれた。

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