板話§八月納涼歌舞伎第三部~乳房榎~

雲行きが怪しく時折雨が降る土曜日の午後、歌舞伎座で納涼歌舞伎の
第三部を観てきた。終演が21時半近かったので我が家からは車での往
復となった。

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一本目『勢獅子』は、やはり三津五郎の踊りに尽きる。派手な動きな
どなく、最小限のさばきで体があるべきところに落ち着く。若い鳶を
務めた国生や虎之介といった十代の連中が、三津五郎のようになるに
は、長い月日を必要とするだろう。それでもその域に達することがで
きるものか……。

お目当ての『怪談乳房榎』は、勘九郎が菱川重信、下男正助、うわば
み三次と三遊亭円朝の四役を務めて、鮮やかな早替わりを見せて客席
を沸かせた。正助は、父親が演じたとおりの愚直な下男をなぞりなが
ら演じ、重信や三次は自分なりの人物描写をやっていたと感じた。

料亭で正助から三次へと早替わりするところで、早替わりをほのめか
す“楽屋落ち”的な台詞が客席に受けていた。もちろん双方が承知の
ことであるけれど、ちょいとばかりやり過ぎと思えなくもないとは、
いささか野暮であろうか。

正助を殺そうと十二社の滝に行くのに座敷から飛び降りる三次の勢い
もまた勘九郎の若さの持ち味で、今は彼の勢いを愛でるべきなのだ。

料亭の場面で獅童の磯貝浪江が酒を注ごうとした徳利を落としたとこ
ろに、すかさず勘九郎がアドリブで返すと、うろたえつつも辛うじて
アドリブで返す獅童ではあったが、そのあたりの当意即妙さは勘九に
一日の長ありである。

幕切れ、三遊亭円朝の高座は、客も帰り支度を始めて気もそぞろとな
ったようで惜しまれる。

歌舞伎座の駐車場を出たのは21時35分。首都高から中央道と順調に走
って、帰宅したのが22時25分とはありがたいこと。

追記:『乳房榎』の幕が開いてすぐ、茶店の女お菊で小山三が登場す
ると客席から盛大な拍手。小山三は明日20日、94歳を迎える。先々も
達者でいてほしい。


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