雅話§百人一首考[12]~あまつかぜ~

[承前]

僧正遍昭(そうじょうへんじょう)

天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ


何とも爽やかな風を感じさせる一首ではないか……五月晴れの青空に
雲が数片、その中空に行き場を失った天女がふんわりと浮いて、彼女
を見上げてにんまりな遍昭という構図を想像している現代人である。

六歌仙の一人である僧正遍昭だが、得度する前の世俗時代には、なか
なかの色好みでならしたようで、そのあたりを新進小説家の周防柳が
『逢坂の六人』という一作の中で、少しばかりどろどろとした描写で
描いているが、筆者がモダンな感覚で描く古今和歌集選者の一人で、
この小説の主人公である紀貫之と、彼の少年時代に出会った六歌仙と
の関わり合いのあれこれが、とても興味深いものだったりしたのだ。

ただし貫之は“僧正遍昭は、歌のさまは得たれどもまことすくなし”
と、歌の体裁はいいけれど中身がないなあと厳しい評価をしている。

まあ、小説は小説として楽しむが吉で、史実に色づけしてあるから、
そのあたりをどう読み進めていくものかは、読者個々の読み解く力と
想像力に負うところ大ということか、そのあたりは短歌も同様だと言
っていいだろう。

というわけで坊さんが、えへへとにやついている姿を想像するのは、
はだはだ余計なことではないかと自分を戒めておかなくてはならぬ。
                            [続く]

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