雅話§百人一首考[10]~これやこの~

[承前]

蝉丸(せみまる)

これやこの 行くも帰るも 別れては
知るも知らぬも 逢坂の関


蝉丸が作ったこの歌も、百人一首に接した最初期に覚えたものだった
と思う。理由は実に簡単で、小学校高学年の人間にしてみれば、歌に
何がなしなリズム感があって、すぐに覚えることができたのだった。

「これやこの」と「行くも帰るも」それに「知るも知らぬも」という
3節の語呂感の心地よさは、一度覚えたら忘れられないものである。

俳句も短歌も、それ以上に長い詩であっても、語感やリズム感は創作
する人にとっても、作品となって読まれる状況にあっても、大切さで
は最上位に近い要素ではないだろうか。

平安の世にあって、どれほど京の都を出入りする人の往来があったも
のか、どれほど人の出会いと別れがあったものか……町を一歩出れば
うら寂しい山道が待ち構えているのを、別れを惜しむあまり2時間ほ
どの道のりを町中から逢坂山まで見送りに行ってしまった。

せめて山科までと思っていたのが、気がついてみたら逢坂山まで同道
したのは、旅立つ人にも見送る人にも別れがたい名残があるけれど、
だが、これ以上の未練は断ち切って……そんな草深い逢坂山の情景を
思い浮かべているのだ。
                            [続く]

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