雅話§百人一首考[30]~ありあけの~

[承前]

壬生忠岑(みぶのただみね)

有明の つれなく見えし 別れより
あかつきばかり 憂きものはなし


百人一首の中では好きな歌の一つである。この歌も言葉のリズムがい
いように感じるのだ。

上の句最初“あ”と下の句最初の“あ”が重なって、頭韻が踏まれ、
“り”の字が3か所登場することで、歌にメリハリのようなものが生
まれたようなのである。

意識してそういう歌作りをすることもあるだろうが、この歌の場合は
どうなのだろうと思った。例えば第3首“あしびきの”の歌について
は頻出する“の”の音が醸し出す描写は、明らか柿本人麻呂が意図し
たものと言えるのだが、忠岑のこの歌に関しては、そうした技巧的な
雰囲気を感じ取ることはできない。

歌の言葉のまま読んでいたら理解できなかったのだが、平安の御世は
男性が女性の許に赴く“通い婚”の世界であったわけで、そうすると
この歌は、壬生忠岑君が朝帰りした時の気持ちを詠じているというこ
とがわかって、興味深いことだった。
                            [続く]

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