雅話§百人一首考[56]~あらざらむ~

[承前]

和泉式部(いずみしきぶ)

あらざらむ この世のほかの 思ひ出に
今ひとたびの 逢ふこともがな


ここにきて、ようやく和泉式部の登場である。生没年不詳なので、こ
の一首を作ったのが何歳だったかはわからない。大雑把に50歳までは
生きたようだ。

イワシが好きだったという彼女を題材にしたのが『猿源氏草紙』で、
それを三島由紀夫が翻案したのが『鰯売恋曳網』で、どこかほのぼの
とした他愛のない歌舞伎のお話である。

紫式部が“恋文や和歌は素晴らしいが、素行には感心できない”と、
日記の中で評しているが、相当に奔放な恋愛遍歴の持ち主であったら
しい。

だから、男性に対して「私、いつまで生きられるかわかりません。な
ので、もう一度お会いしとうございます」などという歌を書き送るな
ど造作もないことだったのだろう。で、まあ……それに易々と乗っか
ってしまう殿方もいたわけで、落としやすいのは誰なのか、そんな勘
が鋭く働くがゆえに、和泉式部の名前は今でも生きているのである。
                            [続く]

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