紀話§十月大歌舞伎昼の部~二世松緑追善~

芸術祭十月大歌舞伎は二世尾上松緑二十七回忌追善ということで、彼
が得意とした演目が昼夜かかるというもの。

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昼の部は4演目『音羽嶽だんまり』『矢の根』『一條大蔵譚』『人情
噺文七元結』という盛り沢山で、そのうち、矢の根と文七が追善狂言
である。

若手6人による“だんまり”は、開口一番の肩慣らしで『矢の根』か
ら本番という感じ。豪放磊落な芸風だった祖父が得意とした曽我五郎
を孫が務めるのもまた歌舞伎の楽しみ。ことのほか客席が沸いたのは
大薩摩主膳太夫が年始の挨拶で持参した宝船の絵を、枕の下に敷いて
寝る時に両足を前に投げ出し尻から落ちる“ギバ”の豪快さだった。
姿はいいのだから、これでもう少し口跡が締まってくれれば言うこと
はないのだけれど。

この日、曽我十郎を務めたのは坂田藤十郎。五郎の夢に登場してきた
が、当月の出演はこれ一本で出演時間は1分ほど。

昼の部一番の見ものは『一條大蔵譚』だった。仁左衛門が大蔵卿を演
じたが、これが絶品。勘三郎の天衣無縫、吉右衛門の凄味に加えて、
仁左衛門の軽みと言えるような存在の長成が加わった。呆けたと見せ
かけている長成が、花道から菊之助の鬼次郎を中啓越しに見やる表情
の見事さ……うまいなあという一言である。

最後『文七元結』は、菊五郎の左官長兵衛がさらさらと、そこに時蔵
の女房お兼がうまく絡む。さらに軽くいい味を出していたのが團蔵の
手代藤助で、ああうまいもんだと感心した。

玉三郎の角海老女将は残念ながら、ぐずぐずな印象だと感じたが……
どこか投げやりな台詞回しは意図してのことだったのだろうか。

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