雅話§百人一首考[67]~はるのよの~

[承前]

周防内侍(すおうのないし)

春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれ


夜話などしている最中に“眠くなっちゃった……枕が欲しい”などと
呟いたら、大納言・藤原忠家が“これをどうぞ”と御簾の下から自分
の手を差し出したので、とっさに“そんなことしたら噂が立っちゃう
じゃん”と詠んだのがこの歌。

一歩間違えれば、今の世のセクハラとも受け留められかねないような
際どいやり取りがのどかに行われていたのだなあと思う。

そこにドロドロ的なものを感じないのは、当時の平均寿命の短さもあ
るんじゃなかろうか。おおよそ35歳という平均寿命は“遊ばなくちゃ
損”みたいな意識が優先されていたに違いなく、それはさぞやあっけ
らかんとした世界だったろうと思われる。

そんな時代の人間は早熟で、30歳を過ぎようものなら、たちまちに人
生を達観するようになるのだろうか。個人的には、若い時期から死に
ついて考えることが多かったと感じているが、平安時代の彼らは、死
を意識すればほどなく寿命が尽きるのだろうから、今の我々のように
死を想いながら20年、30年と生きていくのとは死生観がまったく違っ
ていたことだろう。
                            [続く]

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