街話§神保巷塵[30]黄昏の街歩き

[承前]

退職して以来、週に一度くらいは神保町に出かけている。とりたてて
深い意味はなく、毎日毎日家にいて夫婦が顔を突き合わせ続けてるの
も何だかなあということで、そのあたりは合意事項となっている。

でまあ、大手を振ってのお出かけをしているわけだが、神保町に着く
のは、陽が傾いた15時前後あたりで、そもそも勤務していた時には、
そんな時間帯にうろうろしていたわけでもなく、何となく勝手が違う
ような気分で通りをぶらつくのだ。

それで、早い酒を呑んでご帰還するという、神保町勤務だった多くの
人たちが通過するリハビリを行うわけだけれど、その前に喫茶店に入
ってコーヒーを1杯というのもお約束になった。

仕事をしていた時に喫茶店でコーヒーを飲むのは、何となく慌ただし
くて、昼飯を食べた後など、そそくさと飲んでお勘定するから30分も
滞在してはいない。

それが今や、1杯のコーヒーを前にして2時間近い長っ尻もやったり
しているのだ。15時を過ぎた喫茶店に客などはおらず、それゆえ多少
長逗留をしても、嫌な顔をされることはない……仕事をしていた頃、
さすがに1時間いたということだってなかった。

それがどうだろう。先のことを考えなくてもいいから、心おきなく自
分の時間として使えてしまう贅沢である。

そして喫茶店から移動して早めの夕方に入れば、居酒屋なども混雑し
ていることもなく、これまたのんびりと過ごすことができるのだ……
もっとも2時間も居酒屋などで呑んで食べてという体力などはあるは
ずもなく、せいぜい1時間半も楽しんだ後は電車でご帰還という運び
なのだ。

書店に、喫茶店に、飲食店……神保町はおっさんの遊び場である。
                            [続く]

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