歳話§初めての定年[36]校閲ボーイでした

[承前]

民放のドラマで『地味にスゴイ!校閲ガール』なるものが放送されて
いて初回だけは見たが、そこそこの視聴率を取っているらしい。

で、定年までの10年間だが、出版社のまさに校閲セクションに所属し
ていたのだ。少なからぬ人間が、社員とフリーを問わず、校閲という
仕事に携わっているので、そんな職種をテーマにドラマを作ってオン
エアさせるというのは、何ともいい度胸ではないかと思ったのだ。

校閲という仕事がどんなものかといえば……誤字、誤植のチェックは
もちろんのこと、小説であったら、ストーリーの内容に不備や齟齬が
ありやなしやまでをチェックするのだが、時には重箱の隅をほじくる
ようなこともするわけで。

例えば“新宿発松本行あずさ2号”とは、明らかな間違いで、新宿発
の特急は奇数番号であるとか、そんなことに始まって“リヒャルト・
シュトラウス作曲『ジークフリート牧歌』”などという――これは実
際に某新書の中で見つけたミスだが
――正しくはもちろんワーグナー
作曲である。

そしてストーリーの時系列の誤りも探して指摘することもあるし、兄
よりも年上の弟が存在しているなんとこともないとはいえない。

校正ゲラを読みながら、そういった内容のチェックをするのが校閲の
お仕事なのである。そうした指摘を、編集担当者を通じて著者に疑問
を出すわけだが“明らかな”誤字であっても、校閲者は勝手に赤字を
入れることはせず、あくまでも“指摘”して著者の指示を待つのだ。

そんなわけで、校閲ガール初回放送時にあった、間違いと思われるも
のに、校閲セクションの先輩が「明らかな誤字は赤字で修正する」と
いう件があった。初回ストーリーの中で、校閲ガールが校正紙の中で
橋の名称が違っているのではないかと疑問をだしたところがあった。

実は著者がある意図を持って一字違う橋の名前を書いていたのだが、
それを間違っているからと勝手に赤字を入れてしまったら、大ポカを
起こすところだったのである。

……という風に、このドラマを見ている少なからぬ校正&校閲者は、
鵜の目鷹の目で“疑問出し”をしているのだ。

校正&校閲とは、大きく言えば“危機管理”の最たるものである。
                            [続く]

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