懐話§昭和三十年代~煎餅屋の風景~

[承前]

実家があった路地から表通りに出てすぐのところに煎餅屋が小商いを
していた。店の名前などはなく、ただ“せんべい”とだけしかなかっ
たような記憶である。

それが、せんべい生地から焼いて味付けするまでを店の奥でやってい
て、まさに“工場直送”のおせんべいを食べることができたのだ。し
かも3枚10円とかそんな小遣い程度で買うことができたのは、子供に
とってもありがたいことだった。

およそ10数種類くらいのせんべいやあられを焼いては店のガラスケー
スに入れて売っていたのだ。

店の裏手に回ると、物干し台のような乾燥場があって、餅から作った
白い生地を青空の下で干しているのが見えたが、数十年前だったら、
どこでも見ることのできた風景なのだ。

そうして“製造直販”の店など珍しくもなく、例えばもう一軒、近く
にあった団子屋も、団子からみたらしのタレまで丁寧に作り、店頭で
焼いては売っていたのだった。

その当時はスーパーマーケットなどなかった時代のこととて、ある物
を買うにはそれを扱う店に行かなくてはならず、町内を歩き回っては
食料品などを調達していたのである。

そうして、いつの間にか小さな地方都市にもスーパーマーケットが開
店していて、おおよそほとんどの食料品はそこで揃えることができた
のだが、気がついたら町内の煎餅屋はひっそりと閉店していたのだ。
                            [続く]

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